生化学21鉄とエネルギー代謝(基礎編)
エネルギー代謝とミネラル、重金属
鉄とエネルギー代謝(基礎編)
●概要
・鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)
・すべての元素はエネルギーが最も安定している鉄を目指す!
・鉄の興味深い性質
・食事中の鉄
・体内の鉄の状態はどうなっているの?
・鉄は過剰症になりやすいのはなぜ?
・銅欠乏で鉄欠乏性貧血
・鉄をフリーの状態にしてはいけない理由
・鉄はミトコンドリアのエネルギ―産生をブロック!
・鉄をフリーにしない戦略
・ハンス・セリエの実験
・鉄のサプリで感染症が増えた!
・鉄は単独で免疫抑制作用を持つ!
・マサイ族はなぜ感染症に強いのか?
・ヘプシディン:感染、炎症で血液中の鉄濃度を下げる
・慢性炎症疾患の貧血の特徴
・慢性病と鉄の関係
・少し鉄が体内に増えるだけで糖尿病へ
・貯蔵鉄(フェリチン)が多いほど動脈硬化のリスクが高い
・年齢別死亡率と年齢別鉄蓄積量の相似
・鉄(Fe)のサプリメントで瞬く間に鉄が蓄積
・加齢と鉄、銅の関係……etc.
生化学(21)鉄とエネルギー代謝基礎
今回は重金属の中の『鉄』という元素。
エネルギー代謝との密接な関係について。基礎編。
0:24
■銅と鉄
銅と鉄は非常に密接な関係がある。
歴史的にも紀元前3500年からは青銅器時代と言われるように、銅を使った容器や日用品を使っていた。
また、紀元前1500年からはようやく鉄器の時代になってくるが、この頃からは鉄製の容器や武器などが使用されるようになってきた。
1:11
■鉄と形態形成維持の関係性
*鉄剤を摂取してはいけないのは何故か
関節痛、血糖値異常、性欲減退、疲労、筋力低下、心不全、肝臓肥大?(1:30)、肝硬変、皮膚の色の変化(灰色)。
これらは全て、ある一つの問題が引き起こした病態である。
その病態とは『ヘモクロマトーシス/hemochromatosis』と言われる、全身に鉄が過剰蓄積する病態を指す。
これは特に欧米人に多い病態と言われてる。
2:05
鉄は元素の周期表では第8列に分類され、鉄以降が重金属と言われてるもの。
この「鉄」というものは実は元素の中で最も安定した存在。
なので、“全ての元素は鉄に向かう”という法則がある。
2:35
■核分裂、核融合
核分裂:いわゆる原子炉で起こってる、原子力発電の一つのメカニズム。
核融合:?コウ?(2:51)のサイエンスでは認められてないが、これは宇宙でも起こってる現象。
2:59
*核分裂や核融合のしてること
これは、一番エネルギー的に安定してる鉄へと向かってるだけ。
なので、最終的には全ての元素が、安定してる鉄を目指す。その過程で様々な元素が分裂して核分裂を起こしていく。
その時のエネルギーが放射能と言われてるもの。
3:33
■触媒としての作用が飛び抜けて優れてるのは「鉄」
鉄は二価と三価のいずれも安定してるので、電子の受け渡しの触媒として最も優れてる。
銅に関しては一価と二価では立体構造が大きく変わるため安定した電子の受け渡しには不向き。
なので、特にミトコンドリアの電子伝達系でも鉄がふんだんに使われてる。
銅は最後のコンプレックスⅣ(複合体Ⅳ/サイトクロムCオキシデース)でも使われてるが、電子伝達系では鉄が圧倒的に多い比重を持ってる。
4:19
■鉄の状態
・酸素のない状態(還元状態):Fe2+というイオン体で存在してる。これは水溶中に溶けて存在する。=水溶性の鉄。
・酸素がある状態:Fe3+になる。この状態では不溶性(水に溶けない)。水酸化鉄となり沈殿する性質を持ってる。
4:52
■鉄の動態
体内の鉄はほとんどリサイクルで賄われてる。
なので、鉄は外から食品やサプリ、医薬品などで毎日摂取(吸収)する必要は本来はない。
体内の鉄の総蓄積量:約3〜4g
このほとんどが赤血球に集中してる。残りはフェリチン、ヘモジデリン、あるいはミトコンドリア内に存在してる。
5:39
*マクロファージ
赤血球のリサイクル(赤血球は120日でリサイクルする)で、赤血球が肝臓、脾臓で一旦壊されて新しくリサイクルする時に鉄を回収するのがマクロファージである。
マクロファージは大体1日20mgの鉄を抱えて、それを骨髄に持っていくという役割をしてる。
6:14
小腸から吸収されるのは最大で1日約2mg。
そして、約75%は骨髄、約25%は肝臓に鉄は分布してる。
6:32
鉄は微生物、バクテリアあるいはガン細胞の増殖にとっては非常に重要なファクターになる。
■食事中のノンヘム鉄とヘム鉄
・ヘム鉄:動物性由来
ヘムは体内に入ってくると、「ヘムオキシゲネース−1/Heme Oxygenase-1」(=ヒートショックプロテイン)によって分解されて鉄を遊離する。
その鉄を私たちは利用してるということ。
7:18
・ノンヘム鉄:植物由来
これはFe3+で、水に溶けない不溶性の鉄。
そして、腸内に吸収されてFe2+へ還元状態になり、これが運搬されていく。
7:42
■体内での鉄の状態
これは、ほとんどがタンパク質に結合してる。
・例えば、ヘモグロビンという形のグロビン、あるいはフェリチン:これは、細胞内で鉄を結合させる形のタンパク質。
・トランスフェリン:主に血液内で鉄を運ぶ時に鉄と結合するタンパク質。
8:10
そして、「フリーの鉄」というものがある。
フリーの鉄とは、血液中、細胞内に少量存在するが、これが非常に危ない。
特に細胞内に存在する鉄。これは、ミトコンドリア(TCA回路)の中間産物であるクエン酸、あるいはATPからリン酸が一つ取れたADPとキレート状にくっついた鉄が細胞内に存在してる。
実はタンパク質に結合した鉄は悪さをしないが、細胞内に存在してる有機酸と結合してる鉄、あるいはADPとキレートしてる鉄はフリーの鉄と全く同じく鉄の毒性を持つ。
9:14
■鉄過剰
鉄過剰は現代人の大きな問題になってる。
それは、何故か?
私たちの体は鉄を能動的に排出するシステムがない。なので、例えば1日1〜2mgを超える鉄の慢性摂取をしていれば、容易に鉄過剰になりやすいということ。
鉄過剰は、肝臓、心臓、甲状腺、また他にも関節、性腺といったところに悪影響を及ぼし、様々な慢性病の原因となる。
9:56
■鉄の代謝
食事中の鉄→Fe3+の状態
これがビタミンCなどの還元物質の影響でFe2+となり、初めて小腸粘膜から吸収される。
小腸粘膜で吸収されたFe2+は、血液中で「セルロプラスミン」(重要な銅タンパク質)により酸化されFe3+の形になる。
これが、血液中の鉄を運ぶタンパク質である「トランスフェリン」と結合し、様々な臓器に鉄を届ける。
トランスフェリンが組織あるいは骨髄に鉄を運んだ場合は再びFe2+になる。
さらに、フェリチンと結合する時にまたFe3+となる。
このように、鉄は2+と3+という酸化還元の状態を繰り返すことにより血液と細胞内を移動していく。
11:19
そして、大半の鉄の供給先は「赤血球のリサイクル」。
赤血球のリサイクルによって、細網内皮系(肝臓・脾臓のこと)で赤血球が分解されて出てきた鉄を再利用していく。
それにより、またトランスフェリンが結合して、骨髄あるいは組織に持っていく。
11:50
以上が、鉄のメインの循環。
“食事から”というのはマイナー。
どちらかというと、赤血球のリサイクル。これが、鉄の代謝の中心になる。
12:08
■鉄欠乏性貧血
これは医療現場や一般健康常識で“貧血といえばこれだ”という先入観があるものだと思う。
でも、実は鉄の摂取が不足していてなる貧血は非常に稀である。
特に現代社会では鉄剤や鉄強化食品が食品に混ぜられてるので、鉄が不足するということはほとんどない。
これが、“逆に銅が不足したことで鉄欠乏性貧血が引き起こされる”というのが今回の話。
12:55
セルロプラスミンは銅を含むタンパク質。
このセルロプラスミンが鉄を酸化させて、トランスフェリンの運びやすい形であるFe3+にする重要な働きを担ってる。
もし、銅が不足するとセルロプラスミンという銅タンパク質が機能しなくなる。
そうすると、鉄を小腸から血液に運ぶ形であるFe3+にならない。それにより鉄利用ができなくなる。
なので、鉄がいくらあったとしても利用ができないことで「鉄欠乏性貧血」になるということである。
13:42〈映像確認〉
■鉄の運搬
左)小腸の粘膜細胞
ここで鉄が吸収され「フェロポーティン/Ferroportin」というタンパク質によって鉄が血液中に移動する。
そのフェロポーティンからセルロプラスミンによりFe2+をFe3+にし、やっとトランスフェリンで血液中を循環する形になる。
そして、トランスフェリンと結合した鉄が組織に配られていく、という形になってる。
14:35
“銅不足でセルロプラスミンが下がると、肝臓に鉄が過剰蓄積するようになる。”
これは、小腸から吸収された鉄がトランスフェリンで全身を循環することができなくなる。
そして、門脈から通ってきた鉄が肝臓に蓄積し、それが過剰蓄積することになる。これにより肝硬変や肝ガンになる。
つまり、銅不足ということで鉄欠乏性貧血になるだけではなく、肝臓に重大な障害が及ぶということである。
15:29
■鉄をフリーにすると
鉄をフリーにする。
つまり、先述(7:42〜)のグロブリンやトランスフェリン、フェリチンといったタンパク質から離れる。あるいは鉄が有機酸またはADPといった物質とキレート結合するような形。
このような形になった場合は、エネルギー代謝を止める方に鉄が働く。
まず、フリーの鉄は細胞に入り、ミトコンドリアのエネルギー代謝を止めてしまう。
そして、プーファの脂質過酸化反応を触媒するのがこの鉄である。鉄が二価と三価に還元酸化の状態を繰り返すことで、不可避に発生したハイドロキシラジカルがプーファをアタックして自動酸化が始まる。
その過程でできたアルデヒドがタンパク質、遺伝子などに結合して生命場を変性させていくのが最も大きな慢性病の原因。
16:43
ミトコンドリアのエネルギー産生でも特に電子伝達系のところでフリーの鉄の存在下で発生したアルデヒドが、ミトコンドリアの様々な酵素(電子伝達系ではサイトクロムCオキシデース)に結合しその働きを止めてしまう。
そうすると、電子の受け渡しが電子伝達系でできなくなり電子が渋滞する。それにより細胞に電子がたくさん蓄積する=電子が渋滞する形になる。
これが、まず脂質過酸化反応のスタートである。
鉄は酸化ストレスだと言われてるが、最初はミトコンドリアのエネルギー産生をブロックして「還元ストレス」を与える。
その還元ストレスからいよいよプーファの自動酸化が始まり「酸化ストレス」になる。
18:02
鉄は極めて危険な重金属なので、体内ではタンパク質に包んで格納してる。
■鉄をフリーにしないための戦略(まとめ)
・70%はグロブリンというタンパク質でヘモグロビンにして赤血球内に格納してる。
・25%はフェリチンというタンパク質で各組織の細胞内で格納されてる。
・残りはトランスフェリンという運搬タンパクで基本的には鉄をフリーにしないような戦略をとってる。
18:44
■ストレス学説/鉄は酸化ストレスを与える
ストレス学説で有名な「ハンス・セリエ」という人がいる。
彼はネズミを縛り、そのネズミにストレスを与えて臓器がどうなるか?というのを研究した人。
そのネズミのストレスによる臓器の変化でエストロゲン、あるいは過剰に鉄を与えても同じようにストレスが作れるということをすでに報告してる。
過剰に鉄を与えてネズミにストレスを与えると「強皮症」となった。これは自己免疫疾患、膠原病の内の一つ。結合組織がどんどん硬くなっていくという慢性炎症疾患である。
19:41
この強皮症はビタミンEで予防できることもその当時にわかっていたので、鉄は最終的に酸化ストレスを与えるということがこの1980年代の実験からもわかっていたということである。
20:04
■感染症と鉄の関係
これは非常に重要。
「ソマリアの難民キャンプで貧血の子供に鉄のサプリを投与した」という臨床実験がある。1970年代に行われた実験。
すると、鉄のサプリを摂取した子供たちに結核、マラリア、ブルセラ感染症が増加・増悪したということが起こった。
何故、こんなことが起こったのか?
それは、結核などのバクテリアは鉄で増殖するから。
なので、余分に鉄を与えてしまうと感染症になる。つまり、バクテリアの増殖を招く。
21:05
鉄はバクテリア、寄生虫、ガン、全ての細胞の成長に必須の元素。
鉄のサプリはマラリアなどの感染症が増加するということもわかってる。
21:25
そして、鉄で重要なことは『免疫抑制作用を持つ』ということ。
鉄がバクテリアなど様々な微生物の餌になり増殖させるということが感染症の発生に対して非常にプラスに働くということだったが、その他に免疫抑制作用も持つ。
特にマクロファージの食作用を低下させる。
つまり、免疫が下がる=マクロファージの食作用がなくなれば、当然バクテリアなどのゴミが増殖するということになる。
22:18
*感染症が鉄を与えることで悪化する理由(まとめ)
①バクテリアの餌になる
②私たちの体の免疫を抑えてしまう
この2つの相乗効果によって感染症が悪化する。
22:43
●マサイ族が感染症に強い理由
マサイ族は感染症に非常に強いことがわかってる。
特にマサイ族は牛の便で家を作ってる。
実は、牛の便にはアメーバ赤痢と言われるものがたくさん存在する。つまり、こういう場所で寝てるとアメーバ赤痢にかかる可能性が高くなるということ。
しかし、マサイ族は実際にはアメーバ赤痢にほとんどかからない。
その理由とは?
23:26
実は、ミルク。
これは、母乳でもそうだし、牛のミルクでも同じで、ミルクには「ラクトフェリン」が含まれてる。
ラクトフェリン:ラクトフェリンは鉄と結合して、バクテリアの餌にならないようにしてるタンパク質。
つまり、ラクトフェリンが鉄と結合した状態ではバクテリアは鉄を使用できないということになる。
バクテリアが使用できるのはフリーの鉄。それを自分たちのタンパク質にくっつけて、自分たちの成長や増殖に利用しようとしてる。ミルクに含まれるラクトフェリンがそれを防いでるということ。
24:24
マサイ族は軽度貧血状態。ミルクに含まれるラクトフェリンが鉄の利用をブロックするということもあり、軽度貧血になってる。
これは、マサイ族はすごい量の乳製品を摂る。そのため軽度の貧血状態になってる。
このマサイ族に鉄剤を投与するという馬鹿げた臨床実験をした人がいてる(1970年代)。
そうすると、みんなアメーバ赤痢になった。
それは、免疫抑制作用及びアメーバ赤痢の鉄は餌になるから。当然そうなる。
これを防いでいたのがミルクだったということ。
25:26
■バクテリア・真菌
バクテリアや真菌は鉄を餌にして増殖する。
そして、バクテリア・真菌は実は私たちが鉄を運ぶ形であるトランスフェリンあるいは母乳中に含まれるラクトフェリン(鉄を結合させるタンパク質)と同じものを持ってる。
それを「シドロフォー/Siderophore」と呼ぶ。このタンパク質に鉄をくっつけて自分の増殖に利用しようとする。
このトランスフェリン、ラクトフェリン、シドロフォーによる鉄の奪い合いが私たちの生体内で繰り広げられてる。
26:17
■鉄の利用を少なくしようとする私たちの体の試み/ヘプシディン
これはガンや慢性炎症、感染症の時に私たちの体が鉄の利用をなるべく少なくして被害を最小限にしようとする試みがある。
それが「ヘプシディン/hepcidin」というタンパク質。
ヘプシディン:抗バクテリア、抗ガンタンパク質と言われるもの。重金属を吸着するサイオール基(thiol,SH基)をたくさん持ってるシステインリッチなタンパク質。
そして、このヘプシディンが具体的には小腸粘膜が鉄を移動させるのにフェロポーティンというタンパク質を使うが、このフェロポーティンに結合し、そフェロポーティンを分解する働きがある。
それで鉄の小腸での吸収をブロックする。小腸から血液の移行もブロックする。
27:42
このようなことで、鉄の過剰摂取あるいは鉄の過剰吸収(過剰の血液循環)を防ぐという役割がある。
27:56(まとめ)
感染、炎症の場で血清中の鉄濃度を下げるのに、私たちは肝臓からヘプシディンというタンパク質を放出する。
ヘプシディンは上記のように小腸粘膜で鉄の運搬に必要なフェロポーティンというタンパク質に結合してそれをブロックすることで、鉄の血液への流入を防ぐ、ということである。
28:29
ヘプシディンを増加させるものは、“感染症”。
その他、鉄剤投与や輸血。
この場合は過剰の鉄が問題になるので、私たちはヘプシディンを肝臓から放出してなるべく鉄を利用できない形にする。
あるいは、腎臓障害。また、遺伝的要素もあると言われてるが、もう一つはプロゲステロン(保護ホルモン)。
このプロゲステロンが発動した場合もヘプシディンがUPし、鉄の利用をブロックしようとする。
29:13
その逆に、ヘプシディンがなくなってしまう・・・つまり、鉄がどんどん利用されていく形になるのは“エストロゲン”である。エストロゲンが代表的なもの。
他は、HCV(C型肝炎)感染やアルコールは肝障害を起こす。なので、このヘプシディンの産生が低下する。
それにより、鉄の利用が増加する。
29:43
炎症、感染症、ガン細胞が出た時にはヘプシディンが肝臓から放出される。これが、鉄の利用をブロックする。
一番大きいのが、小腸からの血液の移動をブロックするフェロポーティンに結合して、このフェロポーティンを分解し、鉄が血液に出ないようにすること。
30:10
あるいは、鉄の動態はほとんどがリサイクルというもの。
赤血球が潰れて、そこから鉄が出てくる。その時にはマクロファージが鉄を吸収し、それを組織に運ぶ。
このマクロファージもフェロポーティンから鉄を出すが、このマクロファージのフェロポーティンにもヘプシディンが結合し、それを分解することでマクロファージからの放出も止めることができる。
30:50〈映像確認〉
●左)ヘモクロマトーシス:鉄過剰の病態
鉄過剰の病態ではヘプシディンの産生が極めて低下してる。なので、鉄の小腸からの吸収もUPし、またマクロファージからの鉄の遊離や鉄の貯蔵も全てUPする。
これが「ヘモクロマトーシス」という鉄過剰の病態。
31:17
●右)慢性炎症による貧血
・鉄の遊離をブロック
・鉄の小腸からの吸収もブロック
・マクロファージからの鉄の遊離もブロック
=これらは全てヘプシディンがUPするということ。
これにより戦略的に貧血にするというのが、慢性炎症による鉄利用をブロックするという意味での貧血。
31:47
■生体内での鉄の状態
ほとんどがヘモグロビン、タンパク質とくっついてる。
なので、フリーの血清鉄は極めて少ない。
32:02
■慢性炎症疾患の貧血の特徴
血液での鉄の利用を下げるために血清鉄は下がる。
その分、フェリチンは上昇するか変化がないか、という感じ。
鉄を結合するフェリチンやトランスフェリンの鉄の結合能力を下げ、なるべく鉄を運搬しないようにする。
という、上記の3つが組み合わさると大体慢性炎症が起こってるということが判断できる。
つまり、血清鉄が下がってるからといって鉄が不足してるわけではない。炎症あるいは感染があるからこそ私たちの体が鉄の濃度を下げるようにしてるということ。
先述のヘプシディンの放出によって血清鉄をグッと下げるということ。
33:04
なので、血液検査で貧血と判断され、血清鉄も少ないという結果が出た場合。
こういう場合は、すぐに今の現代医療あるいは一般の健康常識だと“鉄欠乏性貧血”だと判断される。
でも、それは間違い。
まず、慢性炎症あるいは甲状腺機能低下がバックに隠れてないか=慢性炎症疾患がバックに隠れてないかということを考えないといけない。
この状態で鉄が少ないわけじゃなく戦略的に鉄を下げてるのに、鉄が少ないと勝手に判断して鉄剤を投与すると逆に炎症が加速する。
あるいは、感染症がひどくなる(22:43〜のアフリカの実験で明白になってる)。
33:59
■トランスフェリンの飽和度
これも現代医学でよく調べられる項目。
これは、鉄運搬タンパク質の鉄結合の割合。
トランスフェリンの飽和度が高い:血液中の鉄が飽和してるということ
これが、尚且つフェリチン値が正常、上昇ということなら初めてここで鉄がトランスフェリンにいっぱいいっぱい結合してるし、フェリチンも高い(細胞内の貯蔵体である鉄が高い)状態となる。
こうなって、この時に初めて鉄過剰症と判断できる。
なので、トランスフェリン飽和度(トランスフェリンにどれだけ鉄が結合してるか)の割合も鉄欠乏性貧血であるかどうか、あるいは鉄が過剰に蓄積してるかどうかを調べるのには非常に有用な指標になる。
35:03
その鉄欠乏性貧血は極めて稀。
これはフェリチンも少なく、トランスフェリン飽和度が低いという状態で初めて疑うべき貧血の種類である。
35:18
■フェリチン
フェリチンは細胞内に鉄を格納する形のタンパク質。
*フェリチンが上昇する時
・急性・慢性炎症で鉄を利用させない状態
・慢性アルコール中毒
・肝臓障害、腎臓障害、ガン
なので、フェリチン値が高いということだけで鉄過剰症と臨床の現場では判断されがちだがそうではない。
フェリチン値が高い=鉄過剰というよりも、むしろガンや慢性炎症を疑わないといけないということ。
36:10
*フェリチンが低下する時
・甲状腺機能低下の部分症状(これが最も多い)
フェリチン値が極端に低い=このフェリチンはタンパク質なので、これを産生する力がないということ。
なので、フェリチン値が低いということだけで鉄欠乏性貧血という判断をしてはいけない。
その鉄欠乏性貧血よりも最も多い原因が糖のエネルギー代謝の低下。つまり、甲状腺機能低下を疑うべき。
36:51
■血清フェリチン値
これは、血液内のフェリチン値。
フェリチンは基本的には細胞内に貯蔵してる鉄の割合(貯蔵鉄)なので、血液中には通常出ないはず。
しかし、細胞が壊れた時に細胞内に貯蔵してるフェリチンが血液中に出ることがある。
これが、血清フェリチン値。
血清フェリチン値は鉄過剰を示す、というよりも細胞が壊れる病態。他の慢性疾患で認められるもの。
37:30
例えば、
・慢性炎症
・肝臓障害
・ガン
といった細胞が壊れて、細胞の中からフェリチンが出ていく病態で血清フェリチンが上がることがほとんど。
なので、この血清フェリチン値が上がるというのは通常は慢性疾患が多い。
37:53
でも例えば、血清フェリチン値の通常のオーダー(桁数)では大体2桁〜3桁の前半だが、これが4桁の1000や5000という数になると初めて鉄過剰の判断ができる。
だけど、大抵のフェリチン上昇の原因は慢性病ということになる。
38:20
・鉄欠乏性貧血
・慢性炎症による貧血
・エストロゲン過剰
この3つの病態について「血清鉄」、「トラスンフェリン総鉄結合能」、「トランスフェリン飽和度」を見ていきましょう。
38:43
●鉄欠乏性貧血
・血清鉄:鉄が少ないので低値
・トランスフェリン(血液中で鉄を運ぶタンパク質):高くなる
つまり、トランスフェリンをたくさん作るようになる。鉄が少ない。
何故か?
それは、肝臓が鉄の利用を最大限に高めるためにトランスフェリンをたくさん作る。つまり、鉄が少ない状態なので、少しでも多くトランスフェリンを作って鉄を運ぼうとする。
しかし、鉄そのものが少ないので、トランスフェリンの飽和度は低いということになる。=結合してる鉄が少ないということ。
39:28
●慢性炎症による貧血
・血清鉄:鉄欠乏性貧血と同じく、低値
これは戦略的に低くしてる。細胞内に鉄を遊離する。つまり、血液中に鉄を出さないということ。
・トランスフェリン総鉄結合能:これは鉄欠乏性貧血とは違い、低値になる
トランスフェリンをわざと低くして、フェリチンで鉄を微生物から細胞内に隔離する。つまり、細胞内で鉄を抱えたまま血液中に出さないという戦略をわざととってるということ。
なので、ここが鉄欠乏性貧血と大きな違いになる。→トランスフェリン総鉄結合能が低い。
・トランスフェリン飽和度(トランスフェリンと鉄が結合してる割合):ほとんど正常値
40:42
●エストロゲン過剰
・血清鉄:高値
これは、エストロゲンは鉄の吸収をUPさせたり、鉄の利用をUPさせるから。
・トランスフェリン総鉄結合能:鉄欠乏性貧血と同じく、高値
これは、エストロゲンは鉄の利用を最大限にUPするシックネスホルモンだから。
・トランスフェリン飽和度:低値
エストロゲン過剰では鉄とトランスフェリンが結合してる割合はむしろ低くなることが知られてる。
おそらく、エストロゲン過剰で鉄がトランスフェリンにくっついたものが細胞内で実際に利用されることで、トランスフェリンと鉄の結合・運搬そのものは低下してる。そして、細胞内での鉄の利用が増えてるということを反映してるからだと考えてる。
42:02
このように“血清鉄が低い”というだけでも鉄欠乏性貧血か慢性炎症による貧血の違いがあるし、トランスフェリン総鉄結合能が高いからといっても鉄欠乏性貧血だけではなくエストロゲンが原因の場合もあるということである。
42:27
■鉄と慢性病(重要なテーマ)
体内の鉄の蓄積量が多くなるほど糖尿病、メタボリックシンドローム、動脈硬化、肝臓疾患、パーキンソン病などの慢性炎症疾患が高くなる。これはすでにたくさんの報告がある。
また、体内の鉄蓄積量は少し多くなるだけでも糖尿病のリスクが上がるということがはっきり示されてる。
43:07
同じ年齢であれば、体内の鉄蓄積量は男性は女性より多い。これが男性が女性より糖尿病が多い原因だとされてる。
ただし、女性も更年期以降は生理が止まり、鉄の戦略的排出ができなくなるので鉄が徐々に蓄積していく。
つまり、男性にだんだんと体内の鉄の蓄積量が追いついた時点で糖尿病の発症率も男女でほとんど変わらなくなってくる。
43:46〈映像確認〉
*フェリチン(貯蔵鉄)が多いほど動脈硬化のリスクが高い(これもはっきりわかってる)
縦軸)動脈硬化のリスク
横軸)フェリチン濃度
細胞内のフェリチンの濃度(血清フェリチン濃度)が高いほど動脈硬化のリスクが上がっていくことがすでに報告されてる。
44:18〈映像確認〉
*頚動脈の動脈硬化発生率
これも、同じくフェリチンが多いほど発生率は高くなる。
縦軸)首の頚動脈の動脈硬化の発生率
横軸)フェリチンが50μg/ℓ以上高い(濃い色のグラフ)
これは、男性が非常に高いことがわかる。生理前の女性は逆に低い。それが更年期以後はグッと上がる。
特に、手術した症例が一番右に書いてある。
これはすでに動脈硬化がある女性のグループ。やはり更年期以後は上がり、男性とほとんど変わらなくなっていく。
45:18〈映像確認〉
*年齢別死亡率のグラフ(重要)
縦軸)1年間の死亡率
横軸)年齢
例えば0〜20歳を見ると、0〜10歳の手前の6〜10歳あたりが一番死亡率が低い。
一旦その6〜10歳くらいでグッと死亡率が下がり、そこから右肩上がりに死亡率は上がる。つまり、6〜10歳以降は加齢と共に死亡率が上がっていくというグラフになってる。
これが一般的な“年齢別死亡率”と言われるもの。
46:17〈映像確認〉
*鉄は加齢と共に蓄積していくという性質
これは、私たちが鉄を排出するのが苦手だということと、現代社会の食品や様々なものが鉄過剰になってるということ。
上のグラフ)男性
下のグラフ)女性
これは色んなデータがある。
縦軸)体内の蓄積量
横軸)年齢
体内の蓄積量は女性も閉経後はどんどん上がり、男性に近づいている。
男性は加齢に伴い蓄積量は上がっていく。
これを見ても、鉄の蓄積量が低いのはやはり6〜10歳あたり。そのあたりの年齢が男女共に最も低い。
これは年間の死亡率と全く一致するということ。
つまり、6〜10歳という思春期にかけての鉄の蓄積量の少なさが、実は年間死亡率がこの年齢時に人間が最も低く出る一つの理由。
47:42〈映像確認〉
*鉄のサプリを飲むとどうなるか
縦軸)体内の鉄蓄積量
横軸)サプリを与えた時間経過(6週&12週)
上のグラフ)100mg/日、サプリとしての鉄の投与量
下のグラフ)50mg/日、〃
一番下)何も与えない
すると、鉄の量は何も与えない人は12週でどんどん下がっていく。
ところが、サプリを与えた人。これは、1日50mgと100mgの場合の両方ともどんどん鉄の蓄積量が上がっていく。
なので、基本的にヘム鉄以外のノンヘム鉄(=サプリ、あるいは医薬品の鉄)は吸収されにくい形だが、それでも実験で見ると12週(約3ヶ月)飲み続けると確実に体内に鉄が蓄積していくという恐ろしい状態になる。
49:03
●加齢と慢性病では鉄が銅に変わって蓄積していくという現象
冒頭の“私たちは最初に青銅器時代を迎え、その後鉄器時代を迎えた”という話。
これは非常に象徴的だが、実は私たちの体内でも糖のエネルギー代謝が回ってない通常の加齢では、銅ではなく鉄が蓄積しやすくなる。
49:41
*メラニンとリポファッシン
例えば、銅を豊富に含むメラニン。
メラニンは抗酸化作用を持ってる物質なので、紫外線に当たればメラニンが大きくなる。これは実は私たちが紫外線による影響をブロックするためにメラノサイトからメラニンを出すということをしてる。これは色素沈着にはなるが、生体の防御反応の一つである。
ところが、加齢と共に皮膚に過剰な紫外線が当たると、この時にはメラニンが産生されずにリポファッシン=シミとなる。
このリポファッシンの中心となる重金属が“鉄”。
鉄+アルデヒドの塊=リポファッシン
50:44
なので、年をとるごとにメラニンが出る。つまり、皮膚が浅黒くなる。
これは「一時的に皮膚を浅黒くし、メラニンを増やして過剰な紫外線の影響をブロックする」ということではなく、「加齢と共にすぐ過剰の紫外線でリポファッシンというシミ(肝斑)ができる」ということになる。
これも銅から鉄という変化。
51:17
メラニンはどちらかというとプーファの脂質過酸化反応から産生されるMDAというアルデヒドの濃度・発生を減らす作用を持ってる。
リポファッシンは逆。
MDA、4-HNEというオメガ6、オメガ3からできるいずれのアルデヒドもリポファッシンによって上がる。これは鉄の存在下で上がるので当然である。
51:56
*動脈硬化
これは動脈硬化でも同じ。
動脈に弾力を持たせるのが銅の役割。
この銅がどんどん鉄に置き替わり、カルシウムが沈着していく。これにより、動脈の弾力がなくなっていくのが動脈硬化。
52:21
*パーキンソン病
これも同じ。網膜や中脳の黒質でドーパミンが作られるが、これも元々銅が必要とされた部位である。
ドーパミンを産生するのには銅が必要とされるが、その部分に鉄が沈着するようになる。そうすると、ドーパミンを産生できなくなるということが起こる。
これがパーキンソン病で実際に起こってること。
53:00(まとめ)
以上、今回は鉄の基礎編について。
鉄がもたらす実際の作用と、どのような慢性病を引き起こすかという内容でした。
特に鉄の問題としては『私たちの免疫を抑制する』ということ。
そして、『ガン、バクテリアの餌となり感染症、また慢性炎症を悪化させる』。
このような、私たちの鉄の過剰による最も危険な作用がまず一つあるということ。
そして、『プーファの脂質過酸化反応でアルデヒドを発生させる』ということ。
この2つによって私たちの生命場を完全に壊していく作用がある。
53:59
鉄は通常はタンパク質に包まれて、フリーの鉄にならないように私たちの細心の注意を払って循環させている物質。
なので、安易に外からサプリあるいは医薬品の形で投与すると、先述のアフリカの臨床試験のように感染症が悪化したり、ガンが増大するということになる。
fin
