生化学3ミトコンドリア系
生化学③ミトコンドリア系代謝
・三大栄養素のエネルギ―代謝
・TCA回路の重要な役割:二酸化炭素(CO2)の産生とハブ役
・糖を完全燃焼(徹底的に酸化)して二酸化炭素(CO2)にする過程
・TCA回路から24ATP産生
・TCA回路を回す酵素が必要とする物質
・過剰なストレス、興奮、運動、低酸素で起こること
・乳酸はシックネス・フィールド(病気の場)を作る
・なぜエネルギーを食物(糖)から取り出すのに電子をリレーしていくのか?
・エネルギー運搬体:NAD+の重要性
・NAD+/NADH 比は電子のフローの指標
・慢性アルコール摂取がなぜいけないのか?
・電子伝達系(ETC)の仕組み
・電子伝達系で電子のフローをブロックする物質―生命体の息の根を止める
・一酸化窒素(NO)の発生がなぜ危険なのか?
・恒温動物で必須のアンカップリング?
・活性酸素種(フリーラジカルズ)は重要なシグナル
・フリーラジカルの近傍にフリーの鉄や一酸化窒素(NO)があると危険!
・肝臓・腎臓の糖新生―ストレス時の代謝「
・夜遅く激しい運動するのはなぜいけないのか?
・乳酸は糖に変換できるから問題ない??
・ガンでは糖新生(Cori 回路)が亢進
・シックネス代謝:乳酸アシドーシス&ケトアシドーシス
・なぜアル中は低血糖になりやすいのか?
・タンパク質も脂質同様にエネルギ―源にしてはいけない etc.
今回はミトコンドリアで行われる糖のエネルギー代謝について。
前回(生化学②)の細胞質というところで行われる解糖系、そこからミトコンドリア系に入って、実際に糖が最終的にエネルギーとCO2になるという過程を詳しくやっていきます。
0:43(映像確認)
これを三大栄養素で分類した場合、どういう風にして私たちの体内で代謝されていくのかをエネルギー産生の観点から描いたもの。
タンパク質、糖質(炭水化物)、脂質といったものが最終的には全てミトコンドリアの中に入ってエネルギーとCO2になっていくという全体図。
1:26(TCA回路について)
【TCA回路】
まず、TCA回路(クエン酸回路またはクレブス回路ともいう)についてを詳しく。
解糖系の次。
TCA回路というのは、実際には解糖系という、糖がミトコンドリアに入る手前のピルビン酸まで。
それに代謝されてそれからTCA回路というところに入っていく。
そして、最終的には電子伝達系というところでエネルギーとCO2になる、その中間点にTCA回路は当たるとも言える。ハブ役にもなってるということ。
あるいは脂肪合成や糖新生などの様々なハブ役をTCA回路は担ってる。
尿素回路というアンモニアのデトックスのところでもTCA回路は非常に重要なハブになってる。
実際のTCA回路とはどのようになってるのか?
「回路」というくらいなのでグルグル回ってる。
実際には、ピルビン酸は、ピルビン酸脱水素酵素という非常に重要な酵素があるが、これによりアセチルCoAという物質に変換され、このアセチルCoAがミトコンドリアの中に入ってグルグル回る。
これがTCA回路と呼ばれるもの。
3:04(TCA回路の順番)
オキサロ酢酸→クエン酸→イソクエン酸→α-ケトグルタル酸→コハク酸→フマル酸→リンゴ酸
「オキサロ酢酸」がアセチルCoAと結合して「クエン酸」になる。そのクエン酸が、また酵素で代謝され「イソクエン酸」というものに変わり、次は「α-ケトグルタル酸」になり、「コハク酸」になり、「フマル酸」、「リンゴ酸」となり、そしてまたオキサロ酢酸まで代謝されて、これがまた解糖系から降りてくるアセチルCoAと結合してクエン酸に変わる・・・という回路がグルグル回ってる。
「糖のエネルギー代謝が回ってる」というのはこのTCA回路がずっとつつがなくグルグルと回ってる状態のこと。
TCA回路で非常に重要なのはCO2がたくさんできること。
イソクエン酸からα-ケトグルタル酸、α-ケトグルタル酸からコハク酸CoAといったところにCO2が発生する。
TCA回路が回れば回るほどCO2がしっかりと産生されるということ。
4:20(電子について)
ピルビン酸からずっと抜いてきた電子。
元々は糖(グルコース、フルクトース)から抜いてきたエネルギーの電子がピルビン酸、アセチルCoA、α-ケトグルタル酸、コハク酸といったところに代謝される時に電子がどんどん受け渡しされて、最終的に電子が次の段階にある『電子伝達系』に運ばれる。
これが、エネルギーの素になる。
なので、TCA回路はCO2、エネルギーを作る重要なハブであるということ。
5:08(脱水素酵素とビタミン)
ピルビン酸脱水素酵素:ピルビン酸からアセチルCoAになる部分を媒介する酵素。
また、α-ケトグルタル酸から次へ行く段階の脱水素酵素をα-ケトグルタル酸脱水素酵素という。
このいずれもビタミンB1、B2、B3といったものが、この酵素が働く上で重要なビタミンになる。
5:50(脱水素酵素)
TCA回路というのは、脱水素酵素がたくさん反応してTCA回路をグルグル回してるということになってる。
脱水素酵素とは?
「脱水素」という文字どおり水素を奪う。この水素に電子が乗ってるので、実際には電子を奪うということ。
電子をどんどん取り除いていく。この、電子を取り除くことを「酸化させる」ともいう。
なので、TCA回路は徹底的に炭水化物(グルコース、フルクトース)を酸化させていく過程だということ。
そして、奪った電子を電子伝達系に持っていって、さらにエネルギー(ATP)に変えるということをしてる。
糖を完全燃焼、徹底的に酸化して二酸化炭素にする過程、これがTCA回路の役割。それを担ってる重要な酵素が「脱水素酵素」と言われるもの。
7:00〈映像確認〉
「e- 」と書いてるところが電子。
FAD(ビタミンB2)、NAD(ビタミンB3)。このいずれかに、電子が運搬役としてビタミンB2、B3を使い、FADH2、NADH(電子が乗っかったビタミンB3、B2)が電子伝達系へと向かう。
7:40(TCA回路の産物)
TCA回路の産物として、ビタミンB3のNADに電子が乗っかったものであるNADH、ビタミンB2に電子が乗っかったFADH2というもの。
・NADは3つ、FADが1つ。
・GTP(ATPと同じエネルギー通貨)が1つできる。
・CO2が2つできる。
そして、ピルビン酸一つにつき合計で最終的には12ATP(12のエネルギー通貨)ができるので、グルコース1分子からピルビン酸2分子ができるため×2でTCA回路だけでも24ATPを生み出せる。
ちなみに、解糖系はたったの6ATP。
しかもTCA回路ではCO2ができるというメリットがある。
8:42(TCA回路を回す酵素が必要とする物質)
これが、まずNAD+とFAD+というもの。
NAD+:ビタミンB3のニコチン酸アミドまたはナイアシンアミドができるもの。
ニコチン酸とはまた違う。ニコチン酸とは植物から摂れるもので、ここにアミド(NH3)というアミノ基がついたもの。また動物性食品から摂れるもので、これがナイアシンアミド。
FAD:ライボフラビン(ビタミンB2のこと)。
解糖系の酵素もNAD+、FAD+を必要とする。
これはいずれもグルコース、フルクトースから電子を抜いてきたものを運ぶ媒体である。
過剰なストレス、あるいは興奮、運動、低酸素といったような刺激はTCA回路でエネルギーをたくさん必要とする。
なので、大量に電子の運搬隊とエネルギー源である糖質が必要。
もし、NADやFADといった電子の運搬隊を必要とするものがそれ以上に上回ってしまったらどうなるか?
それは、このNAD、FADが電子を運べないので、ピルビン酸というところでどんどん電子が蓄積してしまうということになる。
そうすると、解糖系もTCA回路も両方とも『糖から電子を抜いていく』という作業が止まってしまう。
それでは困る、ということで私たちの身体がどうやって電子を処理するのか。それは生化学②の解糖系で話したように「乳酸を作る」ということで、NADHという電子の運搬隊をNAD+というものに戻す。
NAD+となり電子の運搬隊が空になって、これがまた動き出せばTCA回路も解糖系も両方とも動くということになる。
ただ、この場合は乳酸が発生するのでTCA回路までは行かない形にはなる(詳しくは後述)。
この、過剰なストレス、興奮、運動、低酸素というのは必要以上にエネルギーを消費するので、私たちの電子の運搬隊が足りなくなり、最終的には電子が蓄積し、その結果乳酸が溜まる。
12:02(乳酸の害)
乳酸は、還元ストレス・・・細胞の中を弱酸性をアルカリ性にしてしまうという強力なストレス作用を持ってる。
炎症促進、血管のリーク、血管新生(ガンで著明)、線維化、肝硬変、肺線維症、強皮症といった自己免疫疾患でも著明。
そして、ガンを増大&転移させていく、リポリシスも引き起こすし、免疫細胞には食作用をストップしてステロイドやオメガ3といった毒性物質と同じ作用をする。
形態形成維持を完全にストップするので、細胞の中は炎症ゴミだらけという最も危ない状態を作り出す。
乳酸はピルビン酸脱水素酵素という非常に重要な脱水素酵素をブロックするのでTCA回路に糖が入っていかないということで、シックネスフィールド(病気の場)を作る毒性物質としていつも説明してるもの。
13:23(回路の必要性)
エネルギーを糖から取り出すのに、何故わざわざこういった解糖系とかTCA回路とか電子伝達系というようなややこしいものをどんどん介在させて電子をリレーしていくのか?
当然、こういう疑問も湧いてくるはず。
だって、糖から電子を引き抜いてエネルギーにするなら、直接一つの回路だけで十分。電子を取り除いて、それをエネルギーにしたら良いだけの話。
ところが何故、生化学で非常に重要な解糖系やTCA回路、電子伝達系というような複雑な回路で電子をリレーしていくのか。
それについて考えてみましょう。
14:24〈映像確認〉
左の図が私たちのやってる営み。
糖から電子を引き抜いて、最終的には酸素に受け渡すことになる。
この電子が乗った運搬隊がNADHやFADH2と言われるもの。
そして、ちょこちょこと電子を受け渡ししていく。
それで最終的にCO2と水になる。
ちょっとずつちょっとずつ電子のエネルギーを放出していく。最終的に、段階を踏んでCO2と水にする。
15:06〈映像確認〉
右側の図を見ると、一挙に電子を酸素と引き渡してエネルギーにした場合。実際は、確かにエネルギーは出る。でも、ほとんどは熱として逃げてしまう。
エネルギーが爆発して熱となり、この部分がロスになる。このロスが生じるために、エネルギー効率が非常に下がる。
なので、ちょこちょこ電子を受け渡す間にエネルギーをちょっとずつ放出して、最終的に酸素に電子を引き渡してCO2と水にする方が、実はエネルギー総量は非常に高い。
その右の図のように一気に酸素に電子を受け渡してしまうと、熱として逃げて、非常にエネルギーがロスになるということ。
代謝が盛んなほど糖から電子を運ぶ。
16:29(エネルギー運搬隊)
NAD+というのがエネルギー運搬隊の一番重要なビタミンB3(ナイアシンアミド)。
FADH2もFAD+と同じエネルギー運搬隊。
ただ、NAD+の方が総量としては多い。
16:53(NAD+とNADHの比)
エネルギー運搬隊の電子が空のものがNAD+。
電子をNAD+が受け取った形がNADHというもの。
このNAD+とNADHの比が非常に大事。
この空の方。電子をまだ受け取っていないNAD+の方がNADHより多くないと、当然電子を運べないということになる。
なので、この空の方の電子が乗っていないエネルギー運搬隊NAD+とNADHの比を見た時に、このNAD+が必ず多くないと余分の電子を運べない。
つまり、いくらエネルギーが欲しくても糖から電子を運べない状態になってしまう。
そうなると、解糖系もTCA回路もいずれも回らない状態になってくる。
なので、NAD+とNADHの比は非常に大事だということ。
これは、簡単にいうと電子の流れの指標だと覚えておくこと。
例えば、低血糖(エネルギーそのものの材料がなくなる飢餓状態)になると、このNADとNADHの比がバッと下がる。
これは、電子を供給する糖そのものがなくなるわけなので、もちろん電子の流れが下がる。なので、このNADとNADHの比は下がってくる。
18:42(糖尿病とNAD)
糖尿病の場合は、さらにNADの値が下がってくる。
糖尿病は糖の利用そのものができないので、どんどんNADHばかりが高くなってくる。=還元状態。
なので、このエネルギーがない、あるいは糖が使えないという状態になると、必ずNADは下がってくる。電子を運ぶものよりも、電子が結合したNADHの方が高くなるという傾向がある。
これはしっかり覚えておくこと。
19:52(慢性アルコール中毒)
慢性アルコール中毒が何故いけないのか。
アルコールというのは、まずアセトアルデヒドに代謝される。
次に、アセトアルデヒドがアセトアルデヒド脱水素酵素に。これで酢酸に変わって尿から排出される。
ここまでいくと完全にアルコールのデトックスはされる。
ところが、アルコール→アセトアルデヒド→酢酸までのこのデトックス回路でNAD+の電子の運搬隊が使われる。
ということは、NAD+が本当は糖からエネルギーを作るために必要な電子の運搬隊であるが、それが消費されてしまうということ。
この慢性のアルコール摂取では、TCA回路から次の電子伝達系に電子が運ばれるけど、NADH(電子を結合した運搬隊)の処理量をどんどん上回ってしまう。
つまり、NADが消費されてNADHばかりが増えてしまうと、解糖系もTCA回路も両方止まっていく。
そうすると、解糖系で乳酸に変わらざるを得なくなる。
このことから、慢性アルコール摂取をしてると乳酸血症になっていく。
21:37(解糖系およびTCA回路後の電子)
これは先述の通り、NAD+とFAD+が運搬役となる。そして、それらが電子と結合するとNADH、FADH2という形になる。
これがTCA回路から電子伝達系に電子が運ばれる。
ということは、いくら解糖系とTCA回路から電子をせっせと運んでも、もし電子伝達系が働かなければエネルギーと熱にならないということ。
ちなみに、電子伝達系はミトコンドリアの内膜にある部分で、エネルギーだけでなく熱(体温)も担ってる。
22:42〈映像確認〉
冒頭の三大栄養素というところからのエネルギー代謝(一番最初の外観図)より、より詳しく書いたもの(図示)
アミノ酸、グルコース、糖、脂肪酸からどのようにしてエネルギーができるか。
アミノ酸から、あるいは脂肪酸から・・・脂肪からできる場合は直接アセチルCoAから、あるいはTCA回路の第一産物(グルグル回るTCA回路のどの部分か)に入って、そこから電子伝達系に電子を運ぶ。
グルコースの場合は解糖系から順番にピルビン酸に変わり、最終的にはアセチルCoAとなって、ここからTCA回路をいっぱい回って電子伝達系に電子を持っていく。
23:41(TCA回路、電子伝達系、解糖系の場所)
TCA回路と電子伝達系はいずれもミトコンドリアの中にある。
ちなみに、解糖系までは細胞質にある。
23:57(電子伝達系について)
【電子伝達系】
ミトコンドリアの内膜に存在する酵素と呼ばれてるもの。酵素で電子がリレーされるもの。
この、NADHまたはFADH2という物質は電子をくっつけたもの。
これが最終的に酸素に受け渡すことでエネルギーと水ができる。
この糖の代謝を回すNAD+の産生には必須の経路。
24:50(電子伝達系の仕組み)
電子伝達系というのは実は少し複雑。
4つの酵素複合体がある。
複合体1=コンプレックス1
複合体2=コンプレックス2
複合体3=コンプレックス3
複合体4=コンプレックス4
と呼ばれてるもので、複数の酵素が働いて電子を受け取っては次の段階に渡す、という仕組み。
最終的には酸素に電子を引き渡して水となる。その間にATPがたくさんでき、熱もできる。
25:46
この、電子伝達系でも電子をリレーしていく。
これはどういう仕組みでATPというエネルギーに電子が変わるのか。
それは、電子が少しずつリレーすることで放出されるエネルギーを使って、実はミトコンドリアのマトリックス(細胞の膜の中にある基質)にある水素イオンをその膜の外に出す(細胞の内膜と外膜の間に出していく)。
そうすると、どんどん水素がミトコンドリアの中から外に出ていく。中から外に溜まっていく。
26:56
この水素は水力発電の水と一緒。高いところに水が汲み上げられたという状態と同じ。
水力発電の場合は、高く持ってきた水を一気に下に流した1エネルギーを使って発電する。
これはミトコンドリアの電子伝達系のエネルギー生産と非常に似ていて、こちらも水素をどんどん汲みあげる。汲み上げた水素イオンを水力発電のように一気にミトコンドリアのマトリックスに戻していく。
そのエネルギーを使って、ATP(ADPというエネルギーを一つ使ってしまった通貨がある。そのエネルギーを使ってADPをATPに変える、という仕組みになってる)を産生する。
27:56
つまり、水力発電と同じように少しずつ電子をリレーしていく。
この電子の少しずつのエネルギーを使って水素イオンをミトコンドリアの真ん中のマトリックスというところから内膜と外膜の間に汲み上げていくことによって、水力発電のように高く水をキープして一気に流してしまう。
このエネルギーを使ってATPを産生してる。
これは水力発電と同じように考えると理解しやすい。
28:37(電子の流れをブロックされると)
電子伝達系で、電子を受け渡して上記の水力発電と同じ仕組みでエネルギー(ATP)を産生していくわけだけど、この電子のフローそのものを電子伝達系でブロックする物質がある。
29:05〈映像確認〉
電子伝達系の複合体4のところ。特にサイトクロムオキシデーズという酵素があるが、この酵素はある条件で非常にブロックされやすくなる。
もしこの複合体4がやられてしまうと、最終的に酸素に電子を受け渡すということができなくなる。
そうすると、この電子は行き場を失って、フリーに電子がミトコンドリアから細胞質に漏れていくという状態になる。
29:45
元々は電子伝達系をリレーして最後に酸素に受け渡して無事にCO2、水、ATPという物質に変わっていくわけだが、これが途中で渋滞を起こしてフリーの電子になる。
そうすると、これが最後ではなくだいぶ手前の方で酸素と反応してしまう。この状態で発生してしまうのが「活性酸素(ROS)」、「活性窒素種(RNS)」という物質。
30:26(電子のフローをブロックする物質)
そして、電子伝達系で電子のフローをブロックする物質で代表的なもの4つが以下。
・シアン化合物(青酸カリに含まれてる)
・一酸化窒素(NO)
・一酸化炭素:一酸化炭素中毒というのがあるが、これの一番問題なのは電子伝達系を完全にブロックしてエネルギー代謝を止めること。これが一番怖い。
・プーファ:特にオメガ3。最も酸化されやすいオメガ3がアルデヒドを作って、サイトクロムcオキシデーズ(複合体4)を完全に変性させてしまう。機能と構造を変性させて、完全に電子伝達系の働きを止めてしまう物質。
これら上記の4つは非常に危険な物質だと言える。それぞれが含まれてるもの↓
31:27
■シアン化物:生命の息の根を止める物質。
これは、青酸カリなどそんな危ない物質は身近にないと思うかもしれないが、家具とかマットレスに結構使われてる。その他にも焼却場でポリウレタンを燃焼させるとシアン化合物が発生する。
また、あるいは植物にも含まれてる。
種子、亜麻仁、キャッサバ(タピオカ)などはサイアノジェニックグルコサイド(シアン化グルコシド)というシアン化合物を含んでる。
種子は非常に危ない。
32:16
■一酸化窒素
医薬品では対応されてる狭心症の薬(心臓の血管を広げる薬)。血管を広げるといっても炎症を広げるだけだけど、医師はそれを知らない。
また、バイアグラも同じ。これも血管を拡張させるというところを注目された作用薬。
ここに関しては狭心症薬やバイアグラを使用しなければ問題ない。
32:50
ただ、問題は野菜。特に肥料に含まれてる「亜硝酸塩」。これは体内に入ると、途端に一酸化窒素に変わる。
33:04
そして、副交感神経刺激:ショック状態になる。血圧が落ちる。吐き気がする。めまいがする。脂汗が出る。
これらは副交感神経刺激による全ショック状態。
この時も何故血圧が下がってめまいがしたり、脂汗が出るのか?
それは、一酸化窒素がたくさん出るから。
33:31
また、炎症の場の中心物質、ガン、慢性疾患といったもので実際に一酸化窒素を産生する酵素が誘導されて一酸化窒素がたくさん出るようになる。
このような時には最終的に水力発電でエネルギーを作る電子伝達系がやられてしまうということ。
33:57
■一酸化炭素
タバコはもちろん、車の排気ガス、プロパンガスのヒーター。
また、これはあまり知られてないが、ガンも。ストレスやガンで体内産生が上昇する。
この一酸化炭素をたくさん作る酵素がある。これがストレス時にどんどん高まる。
34:32(一酸化窒素の問題)
一酸化窒素が何故恐ろしいのか。
一酸化窒素そのものが電子の流れをブロックするが、これがスーパーオキサイドと呼ばれるもの・・・スーパーオキサイドとは、私たちが正常にTCA回路を回して、電子伝達系でエネルギーを作る時には必ず産生される副産物で必ずしも悪い活性酸素ではない。ただし、一酸化窒素がある場合は問題になる。
35:05
何故、問題になるのか?
それは、ペルオキシナイトライトという強力な過酸化亜硝酸と呼ばれるフリーラジカルができる。
これは、先述のサイトクロムcオキシデーズ言われるコンプレックス4(電子伝達系の最後の酸素に電子を受け渡す重要な酵素)と結合すると、結合したまま離れない。
そうすると、完全にミトコンドリアの糖のエネルギー代謝の最終過程がやられてしまう。
35:43
ちなみに、一酸化窒素そのものは例えばレッドライトを当てると、サイトクロムcオキシデーズの結合を外れて何とか元に戻すことができる。
ただし、ペルオキシナイトライトができてしまうと一巻の終わり。
なので、一酸化窒素が発生するということは、このスーパーオキサイドとの反応を考えると非常に恐ろしいことである。
36:10(酸化的リン酸化)
酸化的リン酸化とは、酸化とリン酸化というものが一つになった言葉。
酸化:電子を糖から抜いて、最終的に酸素に渡す。この過程を酸化という。
リン酸化:水力発電と同じ仕組みで水素がどんどんミトコンドリアの内膜の外に出されて、水力発電の方に戻るという時にADPという、エネルギーを一つ使ってしまった形のものにリン酸がくっついて再びATPになる。これをリン酸化という。
つまり、エネルギーの通貨ができる。そして、電子が酸素に影響をもたらされる過程が、電子伝達系で起こってることである。これら両方共が起こってる。
37:24
電子が酸素に受け渡される過程のエネルギーを使って、ADPがリン酸化されてATPになる、というのが酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)。英語では「オキシフォス」とよく略される。
この、酸化とリン酸化が同時に起こることをカップリングというが、これは同時に起こることが基本。
それを酸化的リン酸化と呼んでるだけで何も難しいことではない。
38:00(アンカップリング)
酸化とリン酸化がカップリングしてると上記で言ったが、では、カップリングしてない場合はあるのか?
これは、実は「アンカップリング」という状態が存在する。
38:20
アンカップリングとは?
電子は酸素にずっと受け渡されていくが、リン酸化でエネルギー(ATP)は産生されない状態になる。
これはどういうことか?
それは、どんどんエネルギーとして水素が水力発電の上に汲み上げられていくけど、ATPは産生されない。では、水力発電のエネルギーはどこに行くのかというと、「熱」に行く。
つまり、水素イオンを一回汲み上げるが、それがまた自動で戻っていく。普通は水力発電の水と同じでダムに溜まっていくが、せっかく汲み上げたものが自然と戻っていく。
39:08
そうすると、せっかく汲み上げたダムの水がチョロチョロと漏れてるような感じ。
この場合はもちろんエネルギーにならない。
この過程で何が起こるか、というと「熱に変わる」ということ。
この電子の少しずつのリレーのエネルギーが熱に変わる=熱として逃げるということ。
39:33
実は、このアンカップリングというのはATPのエネルギー調整・・・つまり、私たちがこれ以上エネルギーは要らないという時には熱にして逃げる。
あるいは、極寒(外気温が寒い)の時には体内で熱を産生して、なんとか体温を維持しようとする。その熱産生のためにアンカップリングが必要になる。
特に、赤ちゃんや冬眠動物はアンカップリング能力が非常に高い(=体温が高い)。
特にブラウンフェッド(褐色細胞)といったところで盛んにアンカップリングが行われてる。
40:25(アンカップリングとは、要約)
つまり、電子がずっとリレーされてエネルギーは少しずつ溜めていかれるが、そのエネルギーをATPに変えるのではなく熱に変えて熱を利用する。この形がアンカップリングと言われるもの。
これは、何のカップリングを止めてるのかというと、酸化とリン酸化というのがカップルしてるのが普通の状態だけど、それをアンカップルする、ということで「アンカップリング」と呼ばれてる。
アンカップリングは熱を作るのに必要な作業だということ。
41:09(アンカップリングが促進される状態とは)
アンカップリングをどんどん引き起こして、熱を蓄える。
あるいは、余分なATPを作らないという作業を促進させる物質がパルミチン酸(=飽和脂肪酸)。飽和脂肪酸は、ATPがたくさんできてる状態。つまり、これ以上エネルギーを要らないという状態。
あるいは、電子が何かの問題で渋滞して危ない状態になってる時。フリーの電子になると活性酸素、活性窒素種、ペルオキシナイトライトというような危ない物質を作る。なので、そういった場合の電子の処理の仕方として。
あるいは熱がどうしても必要な時。
このような時にはアンカップリングをどんどん促進させるような力を持ってる。
42:14
ちなみにパルミチン酸とは飽和脂肪酸で、乳製品や肉類に含まれてる。
果糖やブドウ糖を実験的にとんでもない量を投与すると、オルニチン酸に変わる。
42:38(アンカップリングまとめ)
例えば低体温になるとする。
体温は私たちにとって非常に大事で、一定の温度があって初めて私たちの細胞の中の酵素なども働くので、どうしても恒温動物の場合は体温を一定にしないといけない。
それで、低体温になった場合には即座に脳に働く。視床下部でストレス反応、交感神経、アドレナリンが出る。
アドレナリンはリポリシスを起こす物質なので、過剰に出ては困るものだけど、こういったストレス反応では非常に重要な働きをする。
特に、ミトコンドリアの脱共役タンパク(アンカップリングを引き起こすタンパク質)をどんどん活性化してアンカップリング・・・つまり、電子を熱として逃す。そういう体温を上げる作用がある。
43:45(電子伝達系で、電子の酸素への受け渡しが不完全な場合)
これは、先述の電子伝達系で電子が渋滞した場合。この場合は、途中で電子が酸素と反応してしまう。それで発生するのが活性酸素種、活性窒素種と言われるもの。
44:09
例えば、スーパーオキサイド。
これは通常は生理的にもできるものだけど、プーファや一酸化窒素などが邪魔をすると、スーパーオキサイドが過剰に発生する。
過剰に発生すると何がまずいのか?
それは、鉄とプーファと反応してアルデヒドという毒性物質を作ってしまう。
あるいは、ペルオキシナイトライトという生命の息の根を止める物質を作るので、スーパーオキサイドディスミューテーズという酵素を使って過酸化水素に無害化していく。
これが、私たちの体内に備わってるデトックスシステム。
45:00
電子伝達系の最後の段階でちょっとずつ電子を出しながら、最終的にコンプレックス4から電子を受け取って、酸素に最終的にリレーする場合は活性酸素はできない。
だけど、その途中で電子が漏れてしまう場合。フリーの電子がミトコンドリアから漏れてしまい、細胞質あるいはミトコンドリアの近傍で酸素と反応すれば、活性酸素種と活性窒素種が過剰にできる。
45:40
先述の活性酸素種が生理的にも必要という話。
スーパーオキサイド、あるいは過酸化水素は私たちの身体の中で必要な物質。
ただ、過剰に出ては困るということ。
フリーラジカルそのものは重要なシグナル。
例えばスーパーオキサイド・・・細胞がどんどん機能を持つことを分化というが、細胞が機能を持つように幹細胞から変化していったり、ダメージを修復したり、またはゴミ掃除。ゴミ掃除としてファゴサイトーシス(食作用)、マクロファージ、好中球などの食作用を促す力もあるし、アンチエイジングにもフリーラジカルは一定のものが必要になる。
46:32
しかし、このフリーラジカルの近傍にフリーの鉄、一酸化窒素があると非常に危険。
先述のように、過剰のフリーラジカル(スーパーオキサイド)があれば、または過酸化水素(H2O2)があって近傍にフリーの鉄があればハイドロキシラジカルというものができる。
または、一酸化窒素があるとペルオキシナイトライトと呼ばれる強力な窒息物質(電子伝達系の息の根を止める物質)に変化していく。
47:21
あくまでもフリーラジカルが問題になるのには、電子の過剰・・・つまり、電子伝達系の電子の流れが滞ること(=還元ストレス)。
電子が過剰になって滞ってしまう。
そして、酸素と早々に反応してしまう。
最終的に反応するのではなく、電子伝達系が渋滞して途中で反応して過剰にスーパーオキサイド、過酸化水素というものができてしまう。
その近傍に一酸化窒素があった場合はペルオキシナイトライトができる。
そして、近傍に鉄が出るとハイドロキシラジカルが。これはプーファをどんどん自動酸化していく原因となる。
48:08
いずれも、ペルオキシナイトライト、ハイドロキシラジカル、酸化ストレス、プーファの自動酸化(これが酸化ストレスの本当の意味)を作る。
且つ、ペルオキシナイトライトがミトコンドリアの電子伝達系の息の根を止めてしまう。
48:30
以上、ここまでがTCA回路、電子伝達系の流れの重要な部分。
ここからはTCA回路、電子伝達系、さらには解糖系という糖の代謝をする部分を使ってさらに重要な働きをしていく、ということをやっていきます。
48:57
今までは糖から電子を抜いて、最終的にTCA回路、電子伝達系でCO2とATPを作るという話だった。
これがまず、一つの軸。
それ以外にもTCA回路、解糖系、電子伝達系というのが非常に重要な生命の営みで使用されてる。
その一つが「血糖を維持する」ということ。
49:25(血糖の維持)
血糖を維持する3つの方法。
①食品から得る
私の糖質の中心はあくまでもハチミツのように単糖類が単離してるもの。あるいはショ糖・・・フルーツのようにグルコースとフルクトースが結合した二糖類。これらを中心に摂ってほしい。
49:57
②貯蔵グリコーゲンを分解する
グリコーゲン:グルコースの貯蔵型。肝臓、腎臓に主に蓄積してるもの。
こういったものを分解することで、血糖を維持する。
50:16
③糖新生
これは食事からも得られない場合。糖質制限をしてるとか、ファスティングをしてる、または飢餓状態にあるなどという場合は食品から得られない。
そして、貯蔵グリコーゲンがすでにもう使われてしまって、過剰な運動をしてる場合や、慢性的に長期間糖質制限をしてるという場合にはグリコーゲンがほとんどない。
そうすると、血糖を維持するために何をするか?
糖がないので、どこからか引っ張ってこないといけない。
それを「糖新生」という。
私たちの身体の組成である脂肪とタンパク質をわざわざ砕いて、糖にエネルギー使って変える、ということをしなければならなくなる。
それくらいしてでも糖をしっかり作らなければ、脳がまずやられてしまう。
なので、脳に糖をスペアするために泣く泣く身体が分解されていくというのが「糖新生」。
51:36(糖新生で重要なのは肝と腎)
グリコーゲン(糖(グルコース)のストック)は肝臓・腎臓・筋肉、全ての細胞に備蓄があるが、この糖新生で糖を脳や赤血球という糖依存の臓器に実際に糖を運ぶのは肝臓と腎臓。
この、肝臓と腎臓のグリコーゲンのストックがあるからこそ、ある程度の糖質制限や飢餓、ファスティングなど生命の危険をもたらすような状況でも何とか数時間は凌げる。
52:22
筋肉はグリコーゲンという糖のストック量としては最大の器官。
でも、筋肉は自分のためにグリコーゲンを使うだけ。例えば脳や赤血球などに糖を送るわけではない。
なので、実際に糖新生で重要なのは『肝臓と腎臓』。肝腎要というが、この2つの臓器になる。
52:50(低血糖になると出るホルモン)
低血糖になると出てくるアドレナリン、グルカゴン、成長ホルモンというホルモン。
脳下垂体の前葉から出てくるほとんどのホルモンはストレスホルモンと言われるが、低血糖になるとそういったホルモンのほとんどが出る。
それは何をしてるのか?
実はグリコーゲンを分解してグルコースに変えて、そのグルコースを全身の組織に送るということをしてる。
なので、低血糖時に備えてるホルモンがほとんど脳下垂体前葉のホルモンであるということ。(詳しくは「ホルモンの真実」で)
53:34
糖新生:英語ではgluconeogenesis/グルコネオジェネシス
脳、赤血球、腎臓の髄質、眼のレンズ、角膜、精巣、運動中の筋肉は糖しか使えない。こういった糖依存の器官を守るためにも糖を何とかして確保しないといけない。
54:01
グリコーゲンがある場所は肝臓がメイン。でも、長期の絶食が及ぶと腎臓からもグリコーゲンが出ていく。
あるいは、タンパク質と脂肪を砕いて、ここから作った糖を送り出す。
54:30(夜遅くの運動が危険な理由)
日中にできなくて、夜遅くランニングや筋トレをする人がいてるが、夜遅くに激しい運動を何故してはいけないのか?
それは低血糖ストレスを招くから。
夜遅くに血糖が下がる。しかも、夜はストレスホルモンが上がってる(人間は暗闇になるとストレスホルモンが上がるようになってる)。
夜になるだけでも低血糖になってる、あるいはストレスになってるのに、さらにこれを低血糖とストレスを増長させるのが「夜中の運動」。
そうすると、この糖新生をしっかり高めないことには私たちの血糖を維持できないということになる。
55:41
そして、グリコーゲンの備蓄は特に寝てる時が大事。就寝中は食べることができないので、グリコーゲンを分解するしかない。
このグリコーゲンがなくなれば、いよいよタンパク質と脂肪を分解していくことになる。
このグリコーゲンのストックを失ってしまう、といったことが起こるので夜遅くの運動は非常に危ない。
56:18
【糖新生】
グリコーゲンを分解して、グリコーゲンがなくなった状態の場合。
何から糖を引っ張ってくるか。
これは3種類、大きく分けて2つ。
・脂肪、タンパク質の2つ。
・もう一つは乳酸:乳酸から糖を作る経路もある。
56:42
以上の3種類ではあるが、大きく分けると脂肪組織とタンパク質の2つ。
・脂肪組織(中性脂肪)からグリセロールを抜いてきて、ここから糖を作っていく。
・そして、タンパク質を分解したアミノ酸から糖を作っていく。
タンパク質はどこから抜いてくるのか?
それは、筋肉が当然タンパク質が一番多いので筋肉、また胸腺、コラーゲンなどがどんどん溶かされていく。
57:18
解糖系は糖からピルビン酸になる経路。
ピルビン酸からアセチルCoAとなり、TCA回路に入る。
ここが大きな関門になってるという話でした。
57:34(ピルビン酸脱水素酵素は一方向しか行かない)
ピルビン酸脱水素酵素(PDH)。これは実は一方向。
ピルビン酸からアセチルCoAとなる一方向だけの酵素で、アセチルCoAからピルビン酸にバックすることはできない。
なので、例え脂肪やタンパク質からアセチルCoAを作ったとしても、これが即ピルビン酸に変わって糖に変わる、ということはできない。
58:09(糖新生の基本的な形(仕組み))
これは少し複雑。
これはグルコースに最終的に変えたい。そして、低血糖時にグルコースを糖依存器官(脳や精巣、赤血球など)へ持っていくのが目的。
これはピルビン酸からアセチルCoAは一方向しか行かないが、実はオキサロ酢酸というのがTCA回路にある。
この、ピルビン酸の手前のホスホエノールピルビン酸というものにオキサロ酢酸が、ある酵素(PEPCK)が働いて逆方向に行く。
解糖系の逆を行って、最終的にグルコースへ行く。そして、糖依存器官に行く。
これが、糖新生の基本的な形。
59:13(脂肪→糖の場合)
そして、リポリシス(脂肪が分解されること)が起こって、中性脂肪の一部のグリセロールはここに入る。そして、どんどん上に上がり糖に変わる。
59:26(アミノ酸→糖の場合)
では、アミノ酸はどうか?
アミノ酸は色んなところへ入っていく。
アミノ酸のメジャーなものはTCA回路のどこかへ入っていく。そして、TCA回路の中間産物に変わっていく。
で、最終的にはオキサロ酢酸になって、ホスホエノールピルビン酸さに変わり、ずーっと上に上がってグルコースに変わる。
もちろん、一部のアミノ酸はピルビン酸にダイレクトに変わることによって、またオキサロ酢酸から上に上がっていく。
59:58
このような複雑な経路で糖をわざわざ作らないといけなくなるのが『低血糖症』。
なるべく、この複雑なことを行いたくない。しかし、飢餓の状態や糖質制限、ケトン食、ファスティングといったことをすると、上記のような複雑な反応をせざるを得なくなる。
そして、こういう反応を主として行ってるのが肝臓と腎臓。
1:00:30(糖新生をまとめたもの/映像確認)
・全体が細胞。
・肌色で描いてる部分はミトコンドリアの中。
・そこにTCA回路がある。このTCA回路のどこかにアミノ酸が入っていく。ロイシン、リジン、トリプトファンなどが変わっていったり、ソロイシンがアセチルCoA、アスパラギン酸はオキサロ酢酸に直接変わる。グルタミンはαケトグルタル酸に変わる。
1:01:12
このようなアミノ酸がTCA回路の一部の物質になることで、最終的にはオキサロ酢酸からホスホエノールピルビン酸、そしてグルコースに変わっていく。
1:01:32
糖新生で重要な酵素が2つある。
この2つは、低血糖で発動するコルチゾール、あるいはグルカゴンといったストレスホルモンと言われるものが活性化させる。
つまり、コルチゾールやグルカゴン、ほとんどのストレスホルモンは糖新生を促す物質でもあるということ。
1:02:11(「乳酸が溜まっても糖になるから大丈夫」というのは?)
先述のように、糖新生の一部の材料として乳酸も使われる、という話。→(56:18〜辺り)脂肪とタンパク質以外にも乳酸が糖に変わるというもの。
だから乳酸をどんどん溜めても大丈夫、というのはどうでしょうか?
グルコースを主としてエネルギーを使ってる筋肉や赤血球、こういったものから乳酸がどんどん溜まっていく。
1:02:50
特に酸素がない状況。
筋肉は酸素がないともちろん乳酸が溜まっていく。無酸素運動や長時間の運動をしてるとどんどん乳酸は溜まっていく。
1:03:03
赤血球の場合は、ミトコンドリアそのものがないので、最終的には乳酸が蓄積していく。
赤血球というのは核とミトコンドリアがない特殊な細胞。それは、赤血球は酸素を運ぶために酸素を消費するミトコンドリア、あるいは余分な核(遺伝子があるところ)を全部取り除いて、酸素を運ぶのに特化した細胞だから。
1:03:31
こういったところから乳酸が溜まっていく。
これは、実は肝臓に運ばれてデトックスしていく。
乳酸は毒性物質。なので、これがピルビン酸に変わって、最終的に肝臓の中でグルコースに変わる。
ただ、問題は、この時に6ATP使われること。
エネルギーの無駄遣い、あるいはNADという電子の運搬隊も実は消費してしまうという非常にエネルギーの無駄遣いをしないといけない。
1:03:58(コリ回路)
実は、この乳酸の肝臓の処理でグルコースに変わるという経路は、『コリ回路』と言われる。(エネルギーの無駄遣い)
1:04:20(アラニンコリ回路)
また、『アラニンコリ回路』というものがある。
アラニンコリ回路とは。
例えば、筋肉で乳酸が肝臓に運ばれて、エネルギーを使ってまたグルコースに変わる、という話。
例えばストレスでコルチゾールがたくさん出る。そうすると、タンパク質が分解されて、その一部がアラニンになる。
このアラニンは、タンパク質を分解してできたアミノ酸とピルビン酸とくっついてできるもの。
このアラニンは乳酸と同じように肝臓に運ばれ、実はピルビン酸に変わって同じ経路でグルコースに変わっていく。
1:05:11
なので、低血糖が起こった場合。
乳酸を処理して糖を作っていくわけだが、この時にアラニンという物質も肝臓に運ばれてグルコースに変わる、ということ。
↑これはまとめて覚える方が良い。『アラニンコリ回路』
いずれも、ストレスが働いた時にこういった回路が働きやすいということである。
1:05:43(まとめた図/映像確認)
脳、赤血球、筋肉から出た乳酸、そして筋肉から出たアラニン、これらがエネルギーの無駄遣いをしながらでもグルコースに変えられ、また脳や赤血球、筋肉で使われるという循環。
1:06:03
脂肪からはリポリシスが起こってグリセロールがグルコースに変わる。
それがまた脳や赤血球、筋肉で使われる。
ということで、非常に身体を潰してエネルギーを使って、ということが実は糖新生の行ってる営みである。
なので、非常に身体に負担が大きいということ。
1:06:26
実際にガンでは、糖新生(特にコリ回路)が非常に活発に働いてる。
ガンの代謝で産生される乳酸を肝臓で糖に変換し、またそれを使うわけだが、この時に大量にエネルギーを使う。
あるいは、ナイアシンアミド(NAD+)を消費してしまう。そうすると、どんどんエネルギーが落ちてきて痩せていく。
NADがないと解糖系もTCA回路も働かない。となると、エネルギーの産生もできなくなる。
そうすると、ガンは悪液質という形になっていく。
1:07:09(質問)
症例①(21歳男性):「ハーフマラソンの後しばらくして、ビールを5缶飲み干しました。すると、フラフラして身体に力が入らなくなりました。やがて、筋肉にひきつるような痛みが出現しました。」
これは、今まで学んできた知識、ここで伝えた基本を応用すると、どういう状態になってるかを考えてみてください。
症例②(69歳男性):「マラソン完走の後、全身倦怠感、筋肉痛、血尿があった。診察時には全身に渡って筋肉痛があった。血液検査をすると、乳酸値が著明に上昇、それからカリウムやCPKも上昇。」
カリウムは元々ほとんどの細胞の中にあるミネラルだが、血液中のカリウムが上昇してるというのは細胞が壊れてるというサイン。
そして、CPKという酵素も同じ。元々は筋肉や神経細胞の酵素。これが血液中にたくさん出てるということは筋肉、あるいは心臓の筋肉が崩壊してるということを指してる。
これはどうでしょうか?どういう状況?
1:09:15(回答)
マラソンが鍵。
こういった長時間の運動を私はオススメしないという理由を詳しく述べていきます。
運動の最初のエネルギー源は?これは、マラソンの前に摂取した糖質。これはすぐなくなる。
そして、途中から使うエネルギーはグリコーゲン。これは人によってまばらではあるが、ほとんど持たない。数時間が良いとこ。
すると、途中から後半のエネルギー源は?ということになるが、これは糖がない状態になる。
そうすると『糖新生』を行う。
1:10:07
糖新生の材料は、まず大きく分けて「脂肪」と「タンパク質」。
いずれも身体を分解して糖に変える。
もう一つが「乳酸」。これもコリ回路でたくさんのエネルギーを使ってしまう。
そういった状態で走ってると酸素不足にもなる。
酸素が不足すると、例えグリコーゲンから糖を引っ張ってきたとしても、それはTCA回路には入らずにどんどん解糖系に流れていく(酸素のない)。
そして、ピルビン酸が乳酸に変わっていく。解糖系の、特に乳酸に変わってしまう。そうすると、各組織でどんどん乳酸が溜まっていくということになる。
1:11:04
この乳酸は毒性物質。特に筋肉で溜まるもの。
これが肝臓に運ばれて糖に変わる、というのが「コリ回路」と呼ばれてるもの。
乳酸→ピルビン酸→オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸→グルコース
1:11:26
これが、エネルギーがあり働いてる状態ならまだ何とかなるが、長期間マラソンの状態だとか、またはすでにプーファの過剰摂取で肝臓の機能の低下してる人たち、甲状腺機能が低下してる人たちなどは肝臓の乳酸処理能力がどんどん低下していく。
そうすると、肝臓にどんどん乳酸が溜まっていくが、それが処理できないということで肝臓もいっぱいいっぱいになる。
そうなってしまうと、乳酸が血液中で渋滞するようになってくる。
これを乳酸アシドーシス(乳酸血症)という。
1:12:14
乳酸がどんどん溜まっていくと、嘔気・嘔吐・意識障害・脱力・過換気(息が荒くなる)。
これは何故か?それは、どんどん血液が酸血(酸血症:酸性が非常に高くなる)になっていく。
元々、血液は弱アルカリ性。弱アルカリ性に持っていくためにはCO2を飛ばして(犠牲にして)、PHの調節をしないといけなくなる。
これは本末転倒ではあるが、これで過換気が起こる。
この状態が症例①の方。
1:13:05
何故、糖以外のタンパク質、脂肪をこのように砕いたりエネルギー源にしてはいけないのか?糖新生を行ったり、エネルギー源としてはいけないのか?
脂肪をエネルギーとすると、大量にアセチルCoAができる。
この大量にできたアセチルCoAは何をするのかというと、実はピルビン酸脱水素酵素(解糖系からTCA回路に入るところで非常に重要な関門だったやつ)が止まってしまう。
1:13:46
もう一つ、「ピルビン酸カルボキシレーズ」というもの。
これは、糖新生で働く酵素。コルチゾールやグルカゴンといったストレスホルモンが出た時に糖新生で働く酵素である。
つまり、糖新生、そして糖に上がっていく方も糖が代謝されていく方も両方ブロックされていく。
1:14:14
糖がある場合は、何とか解糖系で乳酸がどんどん溜まる形になる。
糖がない場合は、糖新生が起こって、どんどん解糖系と逆方向に行ってしまう。
1:14:31
そして、もう一つ重要なものが「ケトン体産生」というものができる。ケトン体というのも乳酸と同じで筋肉に使われる一つの形態(糖がない場合)。
肝臓が、いよいよ糖を作る(糖新生)力も無くなってしまうと、ケトン体をどんどん産生する。
乳酸もどんどん溜まっていくわけだが、ケトン体も脂肪からどんどん作っていく。
そうすると、このケトン体産生をするけど、このケトン体がどんどん増えることによって、また血液が酸性に傾く。
これを、『ケトアシドーシス』という。
1:15:27
つまり、肝臓が糖を作る力さえも失ってしまうと、どんどん乳酸とケトンが肝臓で溜まっていくということになる。
ケトンはもちろん一部の筋肉組織の中などで使われるが、その組織での利用よりケトンの産生の方がどんどん上回っていく。そうすると、ケトンと乳酸がどんどん溜まっていく形になる。これが、『乳酸アシドーシス』、『ケトアシドーシス』と言って、非常に危ない状態。
この状態というのは、糖尿病が悪化した時に起こる典型的なパターン。意識障害が出たり、嘔気・嘔吐、脱水、過換気という乳酸アシドーシスと全く同じ形である。
また、筋肉や脂肪がどんどん分解されていくので筋肉痛が出るし、筋肉・心臓の筋肉が崩壊していくと細胞の中にあるカリウムは外に出ていくし、細胞の中の酵素もどんどん外に出ていくのでCPKというものも上がっていく。このような状態になる。
1:16:42
つまり、マラソンでどんどんエネルギー代謝が低下して、グリコーゲンもなくなり、さらに肝臓の機能も低下していくと、糖新生能力も衰えてくる。低血糖にもなるし、ケトンと乳酸の毒性物質ばかりがどんどん溜まっていくという状態。
この状態が、上記の症例にあったような、マラソンの後ビールを飲んだり、長距離を走り過ぎて肝臓の機能が低下した場合は、意識障害、激しい筋肉痛、または尿から血液が出ていくということになる。
1:17:27(何故、アルコール中毒は低血糖になりやすいのか?)
実は、アル中は低血糖に非常になりやすい状態で危険。
1:17:46〈映像確認〉
これは、アルコールの解毒の順番を右側に書いてる。
アセトアルデヒドに変わって、酢酸に変わる。この時にNAD+という非常に大事な運搬隊を消費されて、電子を受け取ったNADHばかりが増えてしまう。
つまり、電子を運ぶ運搬隊が無くなってしまうということ。
1:18:12
この、NADHが溜まると何がまずいのか?
オキサロ酢酸というTCA回路の一つの物質がある。これはリンゴ酸に一度変わった後、またオキサロ酢酸に細胞の外で変わって、ホスホエノールピルビン酸に変わってからグルコースに変わっていく。これが糖新生の一つの形でしたね。
実は、NADHが溜まってしまうと、リンゴ酸からオキサロ酢酸に変われなくなって、糖新生の経路がブロックされる。
1:18:55
そして、ピルビン酸ももちろん乳酸に変わる。NADを産生することで初めて解糖系が回っていくわけだが、この時にもNADHが増えすぎるとどんどん乳酸が溜まる。
つまり、糖新生ができなくなる。且つ、乳酸がどんどん溜まるという状態が慢性アルコール中毒でも起こる。
1:19:23(マラソン=慢性アルコール中毒と同じ状態)
要するに、これはマラソンと同じ状況になるということ。
糖新生も落ちてきて、そして、乳酸とケトン体がどんどん溜まるという危ない状態になってくる。
つまり、マラソンは慢性アルコール中毒と体内では同じ状態に陥ってるということ。
このように、グルコースができなくなる。つまり、慢性アルコール中毒で低血糖になる、という仕組みの話でした。
1:19:57
このように、私たちの身体は生化学レベルで見ていくと非常に複雑な反応に見えるが、実は非常にリーズナブルにできてる。
一つ一つの電子の受け渡しがちょこちょこ行われるために、複雑な反応が続いてるように見えるけど、これはあくまでもエネルギーを有効に使うための一つの手段に過ぎないということ。
1:20:28
そして、解糖系、ミトコンドリアのTCA回路、電子伝達系、これらが全部連携をとって初めてCO2とエネルギー、あるいはアンカップリングということで熱を作るという非常に重要な働きをしてる。
1:20:47
そして、このTCA回路も実は低血糖などピンチの時に、逆に脂肪やタンパク質が分解されてTCA回路に入ってまた糖に変わっていく。
そのように、糖新生でも重要な働きをしてるし、毒性物質の乳酸をデトックスするためにもこの経路が使われてる。
1:21:13
つまり、私たちが元々生命の営みとして使ってる電子のフロー。この電子のフローをするためのこのような回路というのは、私たちが低血糖や糖質制限といった生命の危機を起こすような事態になった時に、またこの経路を利用してうまくストレスに対応できるという部分にも使われてるということ。
1:21:41
このようにして見ると、私たちの生命の営みというのは何一つ無駄がなくできてる。非常に優れた仕組みと言える。
こういったものも、実は基礎のベーシックなサイエンスを学ぶことで初めて理解できることである。
そうすると、巷で行われてる糖質制限、ファスティング、あるいはベジタリアン、ヴィーガンなどといった極端な食事法というのがどれだけ生命の営みに反するものなのか、というのを今回の『糖とエネルギー代謝』と呼ばれるこのシリーズで腑に落とせるようになるのでは。
これを何度も繰り返し見て、自分の血肉にしていただきたい。
そして、全部覚える必要はないので、何か疑問が出た時にこれを見返して、それがこの生命の仕組みに合致してるのかどうかを確認する。
「あんなことがあったな」と覚えてるだけで、見直すことができる。そうすることで今後自分で判断ができるようになる。
1:23:12
今回は『糖のエネルギー代謝』というところで、「TCA回路」と「電子伝達系」という最後のミトコンドリアのところの話でした。
